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詐害行為取消権とは?成立する要件や効果について

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借金をしているときに財産を処分すると、それが「詐害行為」とみなされてしまうことがあります。

詐害行為になると、債権者がその行為を「取消」してしまうかもしれません。それは、債権者には「詐害行為取消権」が認められるからです。

「詐害行為」が成立すると、債務整理をするときにも影響が及びます。

そこで、詐害行為取消権とは具体的にはどのような権利であり、どのような場合に認められて、どのような効果があるのか押さえておくことが大切です。

今回は、詐害行為取消権について解説します。

1.詐害行為取消権とは

詐害行為取消権とは、債務者が無資力(財産より債務が超過している)であるにも関わらず、財産を処分する行為をしたときに、債権者がその行為の効果を取り消すことができる権利です。

詐害行為取消権は、必ず、裁判によって行使する必要があります。
個人的に「取り消します」と言っても効果はありませんし、内容証明郵便などで取消通知を送っても無効です。

詐害行為取消権について理解しやすいように、例を出して説明します。

ある人が、1000万円の借金をしていました。
その人には、唯一の資産として、自宅の不動産があります。借金の支払いが難しくなってきたので、自宅を債権者にとられることがないよう、とても安い金額で友人に不動産を譲ってしまいました。債権者からしてみると、唯一の不動産が失われたことにより、不動産の売却によって債権を回収することができなくなってしまいます。

そこで、このようなときには、債権者が不動産の売却の効果を取り消すことができます。これが、詐害行為取消権です。現行民法では、民法424条に規定されています。

詐害行為取消権の目的は、債務者の財産を保全して債権者の保護をはかることです。

通常は、債務者が借金の返済をしなくなったら、債権者は裁判を起こし、裁判所から支払い命令を出してもらうことができます。そして、判決を元にして債務者の財産を強制執行(差押え)することができるはずです。

ところが、強制執行の対象となる財産が失われてしまったら、判決を出してもらっても、債権回収することができなくなります。

そこで、強制執行の対象となる財産を保全するために、詐害行為取消権が認められます。このような詐害行為取消権の目的のことを、法律的には「責任財産の保全」と言います。

2.詐害行為取消の要件

詐害行為取消権は、どのようなケースで認められるのでしょうか?

具体的には、以下の5つの要件が必要です。

  • 債権は、詐害行為前に成立していたこと
  • 債務者が無資力
  • その行為が、財産権を目的としていたこと
  • 詐害意思があったこと
  • 受益者や転得者が、債権者を害することを知っていたこと

以下で、個別に解説します。

2-1.債権は、詐害行為前に成立していたこと

詐害行為取消権は、債権者が「債務者の財産から債権を回収できるだろう」と考えている期待を保護するための規定です。

そのため、債権が詐害行為「前」に成立していたことが必要です。

詐害行為が起こってしまった後で債権を取得した債権者は、その詐害行為によって失われた財産から債権回収できるとは考えないからです。

たとえば、債務者が自宅不動産を処分した後で、その人にお金を貸す人は、自宅がないことを前提としてお金を貸しているのですから、自宅から債権回収することを期待しません。

詐害行為前から債権を有していた債権者だけが、詐害行為取消権を行使することができます。最高裁判所も同じ考え方をとっています(最判昭和55年1月24日)。

なお、この場合の「債権」は、金銭債権である必要はありません。

たとえば、不動産や骨董品などの物の引き渡しを求める債権の場合などであっても、詐害行為取消権を行使することができます。

反対に、強制執行をすることができない債権によっては、詐害行為取消をすることができません。
詐害行為取消権は、将来強制執行するときのための財産を保全するための制度だからです。強制執行できない権利の場合、詐害行為取消をしても意味がありません。

たとえば、支払い義務のない債務や、強制執行をしない約束をしている債権の場合には、債権者が詐害行為取消権を行使することが認められないのです。

2-2.債務者が無資力

次に、債務者が無資力であることが必要です。

詐害行為取消権の目的は、債務者の財産を守ることにより債権者による強制執行を可能にするためです。
もし、債務者に十分な資力があるのであれば、わざわざその行為を取り消す必要がありません。他の資産から債権を回収すれば良いだけだからです。

債務者の無資力要件は、詐害行為時だけではなく、取消権の行使時にも必要となります。

いったん無資力になって詐害行為が行われたとしても、その後資力を回復した場合には詐害行為取消権を行使できなくなる、ということです。

資力を回復したなら、わざわざ詐害行為取消をしなくても、債権を回収することができるからです。

2-3.その行為が、財産権を目的としていたこと

詐害行為取消権が成立するためには、財産権を目的とした行為であることが必要です。

つまり、債務者の行為の中でも、取消の対象になるのは財産に関する行為だけだということです。たとえば、養子縁組をしたり結婚や離婚をしたりしても、詐害行為取消の対象にはなりません。

これは、詐害行為取消権が債務者の財産を保全して、債権者による強制執行を可能にするための制度だからです。

財産と無関係な行為を取り消したとしても、債務者の財産が守られることはありませんし、将来の強制執行の助けになることもありません。

2-4.詐害意思があったこと

詐害行為取消権が成立するためには、債務者に「詐害意思」が必要です。

詐害意思というのは、詐害行為によって債権者に対する返済ができなくなるとわかっていることです。

このとき「財産が減って、返済ができなくなる」ということを知っていたら十分であり、「債権者を積極的に傷つけてやろう」という意図までは不要です。

2-5.受益者や転得者が、債権者を害することを知っていたこと

受益者や転得者が、債権者を害することを知っていた場合も詐害行為取消の要件となります。

受益者とは、詐害行為の対象となる行為によって利益を受けた人のことで、たとえば、債務免除を受けた借金の相手などが受益者です。

また、転得者とは、詐害行為の対象となる行為を元として何らかの利益を受けた人で、直接の相手方「以外」の人です。たとえば、不動産を贈与した場合、贈与をされた人からさらに不動産を購入した人が転得者となります。

詐害行為取消権が成立するためには、詐害行為の相手も、詐害行為によって債権者を害することを知っていたことが必要です。

詐害行為の相手が、債権者を害することを知らずに財産を譲り受けた場合にまで、詐害行為取消をされてしまったら、相手が受ける影響が大きくなりすぎるからです。

たとえば、借金をしている人が、債権者に支払いをするのを嫌って、唯一の不動産を友人に譲渡してしまった場合、友人が、借金のことを知らなければ、詐害行為取消権を行使することが認められないこととなります。

3.詐害行為取消の対象になる行為

次に、詐害行為取消の対象になるのは、具体的に債務者がどのような行為した場合なのか説明していきます。

3-1.贈与

贈与は、典型的な詐害行為取消の対象です。

タダで財産をあげてしまうのですから、わかりやすく債務者の財産がなくなりますし、何の対価も支払われないので、債務者の財産はなくなる一方です。

無資力な債務者が、自分の資産を他人に贈与したら、債権者は詐害行為取消権を行使することができます。

3-2.債務の支払い

特定の債権者に対してのみ、債務の支払いをすることも詐害行為とみなされます。

お金で支払った場合も、物で支払った場合(代物弁済)も同じです。

債務を支払った場合、支払いに充てた財産はなくなりますが、反対に、債務はなくなるのですから、債務者全体の資産状況を見るとプラスマイナスでゼロになっているようにも思えます。

しかし、債権者にしてみたら、「強制執行の対象にしようとしていた財産がなくなった」という状況が発生しています。それによって、債務者の債務が減っても債権者に対する悪影響に変わりありません。

そこで、債務を支払っただけでも詐害行為になる可能性があります。

3-3.遺産分割

遺産分割は、相続人同士が話し合って遺産の分け方を決めることです。

詐害行為取消権が成立するためには「財産権を目的とした行為」であることが必要ですが、遺産分割の場合、「財産を目的としている」かどうかが問題です。

この点、判例は、遺産分割の性質について「相続財産が誰に帰属すべきか確定させるものだから、性質上、財産権を目的とする法律行為と言える」と判断しています(最判平成11年6月11日)。

そこで、債務者が遺産分割協議の際、他の相続人と結託して「借金を支払いたくないから、まったく相続をしない」などという判断をしたら、債権者は詐害行為取消権を行使できる可能性があります。

3-4.債務免除

債務者自身が、他の人に対し、何らかの債権を持っていることがあります。

たとえば、債務者が誰かにお金を貸していることもありますし、債務者が商売をしていて、売掛金を持っていることなどもあります。

このような場合に、債務者が債務免除(売掛金の請求をしないなど)をすると、詐害行為となるため取り消しの対象となります。
債務免除しなければ、債権者は債務者が持っている債権を差し押さえることにより、取り立てを行うことができるからです。

世間ではあまり認識されていませんが、預貯金も「債権」の1種です。銀行に対する預金払い戻し請求権です。

そのため、債務免除というのは、銀行預金を放棄するのと同じくらいのインパクトがあるということになります。

債務者が勝手に債務免除をしたら、債権者が詐害行為取消をすることにより債務免除が取り消されます。債務者としては、自由に債務の免除をすることも難しくなるのです。

3-5.相当価格での売却

詐害行為取消権では、よく「相当価格での売却」が問題となります。

相当価格での売却、というのは、実情に合った値段で物を売却することです。

たとえば、2000万円分の価値のある不動産を2000万円で売却します。この場合、不動産はなくなりますが、代わりに現金2000万円が入ってくるわけですから、債務者の財産は減少しません。債権者にとって、被害がないとも思えます。

しかし、このような相当価格での売却であっても、詐害行為が成立すると考えられています。

不動産を現金に換えると、すぐに使ってしまうなどの方法で散逸してしまうので、債務者の財産が保全されないことになってしまうからです。

債務者が、不動産のようなしっかりした財産を持っている場合、それを現金化しただけで詐害行為になってしまうのです。

4.詐害行為にならない行為

次に、詐害行為にならない行為について確認していきます。

4-1.相続放棄

1つは、相続放棄です。

相続放棄とは、プラスの財産もマイナスの負債も、一切の相続をしないことです。遺産分割に似ているので、財産権を目的とした行為とも言えそうです。

しかし、判例は、相続放棄について、「身分行為であるから、詐害行為取消の対象にならない」と判断しています(最判昭和49年9月20日)。

身分行為とは、「夫婦」や「親子」などの「身分」に関する行為のことです。相続放棄は、相続をするかどうかという判断なので、結婚や離婚のような「身分に関する行為」と同視されているということです。

つまり、遺産分割の場合には、遺産相続をするという前提での財産処分の段階であるのに対し、相続放棄の場合には、「そもそも相続をするかどうか」という判断なので、財産処分の段階ではないと考えられているのです。

そのため、遺産分割の場合には、「遺産相続をするという前提」での財産処分の段階であるのに対し、相続放棄の場合には、「そもそも相続をするかどうか」という判断なので、財産処分の段階ではないと考えられます。

そこで、債務者が相続放棄したとしても、債権者は詐害行為取消によって相続放棄を取り消すことができません。

4-2.遺贈

遺贈とは、遺言によって財産を移転することです。

贈与が詐害行為取消の対象になることを考えると、遺贈も当然詐害行為と言えそうです。
しかし、遺贈については、詐害行為取消の対象とならない可能性が高いです。

遺贈は、人の最終的な意思を実現するための身分的な行為と考えられるためです。

遺贈が行われたときに、債権者がその財産から回収を行うためには「相続財産分離」という方法を利用します。相続財産分離とは、被相続人と相続人の財産を分離することです。

分離をすると、相続債権者(被相続人に対する債権者)は、受贈者に優先して相続財産からの弁済を受けることができます。

少し難しいのですが、遺贈の場合には、「債権者は、詐害行為取消権ではなく、別の方法で債権回収することができる」と覚えておくと良いでしょう。

4-3.財産分与

離婚の際の財産分与についても、身分的な行為であるため、基本的には詐害行為取消の対象にならないと考えられています。

ただ、財産分与であっても、すでに債務者が債務超過の状態になっていて、債権者に害を与えることを認識しながら、元の配偶者と結託して、不相当に過大な財産を分与したような特段の事情がある場合には、詐害行為になると判断しています(最判昭和55年12月19日)。

そこで、普通に離婚をして財産分与をする分には、詐害行為取消が問題になることはありませんが、借金を免れるために極端な財産隠し的な財産分与をすると、取り消される可能性があります。

5.詐害行為取消の効果

債権者が詐害行為取消権を行使すると、どういった効果が発生するのでしょうか?

以下で、見てみましょう。

5-1.原則的に財産は債務者の元に戻る

詐害行為取消権が行使されたら、その行為はなかったことになります。

そこで、受益者や転得者に移転した財産は、戻ってくることになります。このとき、どこに戻ってくるのかが問題です。

債権者の元に戻るのか、債務者の元に戻るのかがはっきりしないからです。

この点、原則的には、財産は債務者の元に戻ると考えられています。そして債権者は、戻ってきた財産に対して強制執行を行い債権回収を行えば良いのです。

たとえば、不動産の売買や贈与を詐害行為で取り消した場合などには、不動産を取り戻した結果、債務者名義に戻すことができます。

5-2.債権者の元に財産が戻ることもある

先ほど「原則的に」債務者の元に戻るとしたのは、常に債務者の元に戻るわけではないからです。債務者の元に戻るとしても、債務者が受け取りを拒否することなどもあるからです。

たとえば、債務者が現金を贈与した場合や債務を払ってしまった場合、詐害行為取消をして、お金を債務者の手元に戻そうとしても、債務者は受けとらないかもしれませんし、受けとってもすぐに全部使ってしまうかもしれません。

このような場合には、債権者の元に直接お金が支払われます。債権者は、債務者に対する債権と、受けとったお金の返還する請求権を相殺することができます。

このことにより、詐害行為取消権を行使した人が、優先的に支払いを受けることができる効果があります。

5-3.無効になるだけのケースもある

詐害行為の対象が、債務の免除などのケースでは、詐害行為取消をしても特に戻ってくる財産はありません。この場合、単に詐害行為である債務免除が無効になるだけです。

債権者は、後日、債務者の債権が「存在する」ことを前提として(免除されていないため)、免除の相手方(債務者の債務者)に対して支払い請求をすることが可能となります。

5-4.被保全債権の限度までしか行使出来ない

詐害行為取消をするとき、一点注意しなければならないことがあります。それは、どこまでの範囲で取消が認められるかということです。

詐害行為取消権は、債権者の将来の強制執行を担保するための制度ですから、基本的には、債権者の債権保全に必要な範囲で認められます。そのため、債務者が金銭を贈与したようなケースでは、債権額の限度までしか取消ができません。

ただし、不動産の贈与のケースのように、部分的な取り戻しが不可能な場合には、全体としての不動産贈与を取り消すことができます。

また、不動産の贈与などの場合でも、例外的に価格賠償が選択されるケースがあります。

価額賠償とは、詐害行為取消をしたときに、不動産そのものの取り戻しではなく、金銭で代償金を支払ってもらう方法のことです。

たとえば、不動産が贈与されて、それがさらに売買されて抵当権が設定されているなど、権利関係が複雑になっていて、完全に元に戻すのが難しいケースなどです。

こういったケースでは、価格賠償が選択されて、債権者の手元にお金が戻ってきます。この場合には、不動産全体の価格ではなく、原則通り、債権額を限度としたお金が支払われます。

5-5.個人再生の場合

次に、個人再生と詐害行為取消権との関係を見ていきましょう。

まず、個人再生の開始決定があると、債権者が個別に詐害行為取消権を行使することはできなくなります。

そうなると、債務者が、財産を不当に処分した場合にまで、借金が減額されることになり、不当だとも思えます。

ただ、個人再生の場合には、不当な目的で個人再生を利用することが認められていないので、詐害行為取消を免れるための個人再生であることが判明すると、棄却されてしまう可能性もありますし、再生計画案を認可してもらえない可能性もあります。

また、再生計画に、詐害行為の分を上乗せして支払わせることなども可能です。

このことは、債務者の立場からすると、詐害行為をしたまま個人再生手続きに入ると、個人再生が棄却されたり債権者への支払額が大きく増額されたり、再生計画が認可されなかったりするので、重大な問題です。

個人再生するときには、詐害行為をしてはいけません。

5-6.自己破産の場合

自己破産の場合には、どうなるのでしょうか?

この場合にも、破産手続き開始決定後に、個別に債権者が詐害行為取消権を行使することはできません。

その代わり、破産では、破産管財人に「否認権」という強力な権利が認められており、破産者が相手と結託して財産を減少させる行為をしたときには、破産管財人は、その効果を否認して無効にすることができるのです。

そして、否認された場合、対象となった財産は破産管財人の手元に戻ってきて、債権者への配当に回されることになります。

また、詐害行為に該当する行為をすると、それが免責不許可事由になる可能性があります。

免責不許可事由とは、その事情があると、免責(借金がなくなる決定)を受けられなくなることです。たとえば、財産隠しや財産の不当な処分、偏頗弁済(一部の債権者への支払い)、担保提供などは、すべて免責不許可事由となっています。

そこで、詐害行為を行っておきながら自己破産をすると、その効果を破産管財人に否認された上、免責も受けられない可能性が出てきます。

このようなことからしても、借金しているときには、絶対に詐害行為をしてはいけません。

まとめ

借金をしていると、どうしても財産隠しや一部の債権者だけに対する支払いなど、したくなってしまうことがありますが、相手方と結託してこういったことを行うと、詐害行為取消をされてしまうおそれがあります。それだけでは済まず、将来個人再生や自己破産をすることも難しくなってしまいます。

このような間違った行動をとることなく、常に適正に行動しておくことが重要です。対応方法に迷ったときには、弁護士に相談すると良いでしょう。

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